北海道積丹町の積丹岳(1255メートル)で2009年、道警による救助活動中に遭難者の男性=当時(38)=が滑落し死亡した事故をめぐり、男性の両親が道に約8600万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は道側の上告を退ける決定をした。決定は11月29日付。計約1800万円の賠償を命じた二審判決が確定した。

というニュースが流れ、私の周りでは、一斉に、「これじゃ救助なんてできない」「善きサマリア人法が必要」「もともと危険な場所に行ったほうが悪いんじゃないのか?」というコメントが溢れていた。

以前の私の知識であれば、きっと同じような反論をしたと思う。しかし、法律を学び始め、現在は、刑法と救護救急体制の在り方を研究テーマにしているので、今回の判決については、完全に同意はできないものの、納得はできる気がしている。そもそも、ネットのニュースソースの断片だけを見て、原告側を完全批判するというリテラシーに問題はないのかと思えてならない。

今回の判決は救助側の知識と技術不足を指摘しているものであり、雪庇(せっぴ)の危険性を救助隊員が予見できなかったのか、加えて、救助に当たっての準備不足等に過失責任が問われた裁判であった。

これを医療訴訟に置き換えれば、そもそも病気になった患者が悪いという理論に置き換えられるか否かという理論に近く、危険性を予見し回避を考えたのか、知識技術が伴っていないままで見よう見まねで手術をして失敗したけど、そもそも病気になった患者が悪い!という理論なんて成り立つわけがない。助けてやったのに訴えるのか!という批判に近いように思える。
無論、亡くなったAさんにも過失はあるとされているので賠償は8600万の訴えに対して賠償金は1800万の判決が出ている。

11月20日(日)に開催した日本救護救急学会のシンポジウム1では、まさに、救助する側の過失責任ついて、村上弁護士から発表があった。救護救急体制の中での過失責任については、これまで、まさに「都市伝説」的に伝わっていたなぁと思うほど、その伝説が完全に否定され、どのような刑事責任があるか再度認識することになった。もともと、ここは私の肝いり企画。自分が刑法を勉強している過程の中で、非常に誤解された「善きサマリア人法の必要性」が訴えられていることや、さらには、ボランティアには過失責任は取られないという完全なウソ、マラソン等のイベント前に責任は問わないという念書をとれば問題がないという、全くの伝説を堂々と教える人がいては非医療者の人たちに刑事責任を問うような事が起きてしまうのではないかと危惧してきたが、しかし、シンポジウムで、これまでの都市伝説が完全に真っ当から否定されたことには、この業界にとって非常に大きな一歩になると感じている。

最近、非医療者(救急隊は除く)で応急手当の資格?!を持つという一般の方から、医療者対象のセミナー参加の問い合わせが後を絶たない。BLSだけではなく、ACLSも習得しているという人もいる。知っておくべきだくらいの事を言い出し、だから、医療者と同じセミナーを受けようとする。一体誰が応急手当てを医療資格のように認識させているのだろうか?応急手当と医師法17条の違いについてちゃんと教えているのだろうか?

そもそも、医療者が非医療者に医療行為というその知識を与えることも過失責任になる場合があるということを教えた医療者はわかっているのだろうか?

医師法17条を全く理解せずに「緊急避難」と言っている限りは、この分野に新たな法律を作ることは不可能であろうと感じている。

無論、救助、救護、救急に関する新たな法律は必要だと思うが、現行法を全く無視した医療行為の推進が業界内で行われている限りは、新たな法律なんて作ったら、浅はかな知識と技術で医療行為を行う人が出てくるということは容易に想像され、それによる犠牲は一体誰が受けることになるのか、それを考えれば、今はまだ時期尚早であり、何かにつけては「善きサマリア人法ガー!」と叫ぶ前に、まずは、「過失責任」とは何かを理解すべきだと思う。

きっと、今のこの業界の風潮であれば、ボランティアで行う医療行為に対する医療訴訟が起きるまで気づかないままであろうとも思っているが・・・。

ボランティアであれプロはプロ。過失責任はま逃れることはないってことですよね。